- どんな魚をどのくらい食べると水銀の健康被害が起こる?
- 妊婦の適切な魚摂取量
- 魚介類の具体的な水銀量が知りたい!
魚の水銀で健康被害が起こる可能性は0ではありません。ですが研究や厚生労働省の発表では、魚は水銀のデメリットよりも健康メリットの方が大きいとの結論になっています。
今回は研究や厚生労働省の資料をもとに、
- 水銀は過剰摂取しなければ問題がない科学的根拠
- 水銀のデメリットを受けない適切な魚介摂取量
をわかりやすく解説。
この記事で水銀の正しい知識を身につければ、日々の食事で魚介類を気兼ねなく食べられますよ。
水銀は過剰摂取しなければ健康問題なし
水俣病で怖いイメージがある水銀ですが、過剰摂取をしなければ健康に悪影響はありません。その根拠は3つです。
- ハーバード大学院は水銀摂取量と脳卒中・心疾患リスクに関連なしと結論
- 厚生労働省は水銀の過剰摂取を避けながらの魚食を推奨
- 人体は水銀を除去できる
心疾患:心臓病や動脈硬化などの心臓に関連する病気
順に解説します。
ハーバード大学院は水銀摂取量と脳卒中・心疾患リスクに関連なしと結論
2011年にハーバード大学院が大規模データを使って、水銀と脳卒中・心疾患の関係を調査しました(※1)。
- 男性51,429人、女性121,700人の病気や生活習慣のデータを使用
- 1のデータから心疾患を発症した人・発症していない人のデータをランダムに3,427人ずつ選ぶ
- 2の人たちの体内の水銀濃度と脳卒中・心疾患の関係を分析
上記の研究でわかったことは以下の2つです。
- 体内の水銀濃度と脳卒中・心疾患リスクに関連はない(喫煙・高血圧・糖尿病などのリスク要因は調整済)
- 水銀濃度が高い人ほど心疾患リスクが下がる傾向すらあった(おそらく魚をたくさん食べているため)
厚生労働省は水銀の過剰摂取を避けながらの魚食を推奨
厚生労働省は「魚介類に含まれる水銀について」というページで、以下の発表をしています。
平均的な日本人の水銀摂取量は健康への影響が懸念されるようなレベルではありません。特に水銀含有量の高い魚介類を偏って多量に食べることを避けて水銀摂取量を減らしつつ、魚食のメリットを活かしていくことが望まれます
魚介類に含まれる水銀について – 厚生労働省
地球の水銀は以下の流れで魚に蓄積していきます。
- 海洋中の水銀が植物プランクトンの体表面にくっつく
- 植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、体内で水銀が濃縮
- 植物・動物プランクトンを小型魚(イワシなど)が食べ、体内で水銀がさらに濃縮
- 小型魚を大型魚(マグロなど)が食べ…以下略
人体は水銀を除去できる
人の体は摂取した水銀を排出できます。食品安全委員会によれば、体内の水銀は70日で半分に減ります。そのため水銀許容量を超えた過剰摂取をしない限り健康リスクはありません。
また2005年の厚生労働省の発表(2022年時点の最新情報)には、日本人の平均水銀摂取量は許容量の60%程度だと書いてあります。
魚の水銀で注意すべき2つのこと
ここまで魚の水銀は過剰摂取しなければ問題はないとお伝えしてきました。ですが注意点が2つあります。
- 人体の水銀許容量は週に体重1kgあたり2.0μg(マイクログラム)
- 妊婦は水銀が少ない魚を積極的に食べるべき
それぞれ詳しく解説します。
人体の水銀許容量は週に体重1kgあたり2.0μg(マイクログラム)
食品安全委員会は安全な人体の水銀許容量を、1週間につき体重1kgあたり2.0μgとしています。
許容量を超えた過剰な水銀摂取は視覚・聴覚・感覚・運動障害などの中毒症状を引き起こすおそれがあるそうです。
よく食べられる魚介の水銀量は、魚介水銀量ランキングでまとめているので参考にしてください。
妊婦は水銀が少ない魚を積極的に食べるべき
観察研究では妊婦が水銀濃度の高い魚を食べすぎると、子供の発達が悪くなる可能性が指摘されています。
一方、別の観察研究では妊婦が魚を多く食べると子供の発達が良くなる傾向が示されています。
観察研究:参加者に直接的な介入(食生活や運動量の指導など)をせず、今ある情報(質問票回答や身体測定データなど)をもとに行う研究方法。信頼性はそれほど高くない
妊婦の水銀摂取量が多いと子供の発達が悪くなる可能性あり
1997年の研究(※2)で、妊婦の水銀摂取量と生まれた子供の脳機能の関係を調べました。研究内容は以下のとおり。
- 参加者は1,022人の妊婦
- 毛髪とへそのおから妊婦の体内の水銀濃度を検査
- 生まれた子供が7歳になった時点で脳機能をテスト
結果、妊婦の体内の水銀濃度が高いほど、子供の言語・記憶・注意力が有意に低いことがわかりました。
有意:結果が偶然による誤差ではなく、統計的に意味があること
また妊婦の水銀濃度は、子供の空間認識・運動能力にもわずかながら悪影響を与える傾向があったそうです。
妊婦の魚摂取が週340g以上なら子供の発達が良くなる可能性あり
一方2007年の研究(※3)では、妊婦の魚摂取量と生まれた子供の発達レベルの関係を調べました。研究内容は以下のとおり。
- 参加者は11,875人の妊婦
- 妊娠32週の時点で質問表を使って魚摂取量を調べる
- 生後6ヶ月〜8歳までの子供の発達・認知・行動能力をテストし、2との関係を調査
結果、妊娠時の母親の魚摂取量が週340g以上だった子供は、340g未満の子供と比べて、
- 言語IQ
- 活動量
- 社交性
- 精神発達度
が有意に高かったのです。
人間の脳の60%は脂質。この脳の脂質の一部が魚が豊富に含むオメガ3です。研究者は「妊婦が魚からとったオメガ3が、胎児の脳の発達に役立つ」と推測しています。
またFDA(米国食品医薬局)も、子供の脳の発達のために「妊婦は週227〜340gの水銀量が少ない魚を食べること」を推奨しています。
魚介水銀量ランキング
厚生労働省が発表した「魚介類に含まれる水銀の調査結果」から、一般的によく食べられる魚介類を水銀量が多い順にランキングにしました。
この調査は、
- 地方自治体や水産庁による5つの国内調査
- アメリカやイギリスの公的機関による4つの海外調査
をもとにしており信頼性は高いです。ふだんの食事の魚介摂取の参考にしてください。
魚介名 ※は海外調査データ | 1gあたり 平均水銀量 (μg) |
---|---|
クジラ類 | 1.416 |
クロマグロ(本マグロ) | 0.723 |
マグロ類 | 0.437 |
マグロ類※ | 0.3 |
カツオ | 0.154 |
ブリ | 0.153 |
ツナ缶詰 | 0.114 |
クルマエビ※ | 0.11 |
サバ | 0.104 |
マグロ類(缶詰)※ | 0.102 |
タイ類 | 0.093 |
イワシ類(缶詰)※ | 0.043 |
ホッケ | 0.086 |
ズワイガニ | 0.067 |
サバ※ | 0.067 |
サンマ | 0.058 |
ホタテガイ | 0.048 |
ベニザケ※ | 0.046 |
アジ類 | 0.04 |
ヤリイカ | 0.026 |
アトランティックサーモン | 0.025 |
マダコ | 0.024 |
クルマエビ | 0.024 |
シシャモ | 0.022 |
ベニザケ | 0.02 |
サクラエビ | 0.02 |
シジミ科 | 0.019 |
イワシ | 0.018 |
ハマグリ | 0.018 |
サザエ | 0.01 |
ホタテ | 0.01 |
アサリ | 0.009 |
カキ類 | 0.004 |
カキ類※ | 0.001 |
ランキングを見ると
- 大型魚ほど水銀量が多い
- 国産のほうが水銀量が少ないとは限らない(マグロ類、サバ)
といったことがわかりますね。
たとえば、ぼくは体重70kgなので週の水銀許容量が70 × 2.0 = 140μgです。国産のサバ・イワシを缶詰で毎日150gずつ交互に食べています。
上記の場合の水銀摂取量を計算すると、
サバ:150g × 0.104μg × 4日 = 62.4μg
イワシ:150g × 0.018μg × 3日 = 8.1μg
で合計70.5μg。
このように小型魚なら相当量を食べない限り水銀許容量は超えません。
水銀量が少ない青魚を積極的に食べよう
今回の内容をまとめます。
- ハーバード大学院は水銀摂取量と脳卒中・心疾患リスクに関連なしと結論
- 厚生労働省は水銀の過剰摂取を避けながらの魚食を推奨
- 人体は水銀を除去できる
- 人体の水銀許容量は週に体重1kgあたり2.0μg(マイクログラム)
- 妊婦は水銀が少ない魚を積極的に食べるべき
魚は水銀のデメリットよりも健康メリットの方が大きいです。とくにサバやイワシなどの青魚は
- 水銀量は少ない
- 脳に良い脂質オメガ3は多い
- 安い
というスーパーフードです。積極的に食事にとりいれましょう!
魚の具体的な健康メリットは以下の記事で解説しています。魚を食べるモチベーションが上がりますよ。
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