筋肉は加齢でどのくらい減っていくのか。筋肉減少による体への影響はどの程度のものなのか。
今回は公的機関のデータや研究をもとに、歳をとることによる筋肉量の減少と、その健康被害について解説します。
今まで筋トレの必要性を感じつつも、なかなか行動に移せなかった人はこの記事で筋トレを始めたくなるはず。なぜなら筋肉の減少は20代から始まり、筋力低下の健康被害はあなたの想像以上に大きなものだからです。
足の筋肉は20歳から減り始める
↑は日本老年医学会が2010年に発表したデータ。日本人男女4,003人を対象とする、年齢ごとの全身筋肉量の推移です。これを見ると全身の筋肉量は40歳頃から少しずつ減り始めます。
80歳までに男性は17%、女性は11%全身の筋肉が減るのです。
全身よりさらに減りが早いのが足の筋肉。↓は同じく日本老年医学会が発表している足の筋肉量の推移です。
全身の筋肉減少は40歳からだったのに対し、足の筋肉は20歳から減り始めます。しかもその減少率は全身より大きいのです。足の場合、80歳までに男性は31%、女性は29%筋肉が減ります。
筋肉を2週間使わないだけで50年分おとろえる
コペンハーゲン大学が2015年に発表した研究で、足を全く動かさなかった場合に筋肉がどのくらい減るのかを調査しました。研究内容は以下のとおり。
- 参加者は平均23歳の若者17名、平均68歳の高齢者15名
- 2週間にわたって参加者の足をパッドで固定して動かせないようにし、筋肉の変化を調査した
パッドって何?と思った方、ぼくも気になったので調べてみました。原文ではleg padと書かれていましたが、それ以上の情報はありません。おそらく↓のような関節を固定して足を動かせなくする器具だと思います。
出典:Amazon
話を戻すと、2週後に若者・高齢者グループの筋肉は以下のように変化しました。
筋力低下率(%) | 筋肉減少量(g) | |
---|---|---|
若者 | 28 | 485 |
高齢者 | 23 | 250 |
もともとの筋肉が多い分、若者は高齢者より筋肉がたくさん減ってしまうのです。
研究者はこの結果について「若い男性が足を2週間固定されると、筋力が40~50歳分低下する」とコメントしています。
筋肉が減ることによる3つの悪影響
ここからは筋肉が減ると起こる3つの健康被害をお話します。
- 肉体的にも精神的にも行動力が下がる
- 骨折・転倒可能性が上がり、介護リスクが高まる
- 代謝が減り、太りやすくなる
肉体的にも精神的にも行動力が下がる
筋肉が減れば当然体力も落ちます。スポーツやスキューバダイビングをはじめとした旅行アクティビティなど、体を動かす活動を楽しむことはだんだんできなくなっていくでしょう。
加えて筋トレや運動をしない人は、男性ホルモンの一種であるテストステロンが減ります。(テストステロンは女性にもあります)
テストステロンが関係しているのは、好奇心や新しい物事に挑戦する冒険心など。つまりテストステロンが減るとやる気や行動力が下がるのです。
骨折・転倒可能性が上がり、介護リスクが高まる
2019年の国民生活基礎調査によれば、高齢者の介護が必要になった原因は認知症(17.6%)、脳卒中(16.1%)、衰弱(12.8%)に次いで骨折・転倒(12.5%)が4位。筋肉の減少はこの骨折・転倒リスクを上げます。
筋肉が少ない人は骨が弱い
筋肉が強いと骨も強くなります。よく筋トレは骨がスカスカになって骨折しやすくなる骨粗しょう症予防に効果的と言われますよね。その理由は以下の3つです。
- 筋肉が骨のまわりにしっかりついていると、外部の圧力から骨を守り骨折を防ぐ
- 筋トレで骨に刺激を与えると、骨がより強く丈夫になる(ホルミシス効果)
- 筋トレで発生する乳酸は、骨の成長や修復をになう成長ホルモンを分泌させる
筋力が弱まると転倒の原因になる
筋肉がおとろえると、自分が予想する動作と現実の動きに差が生まれます。
(たとえば段差で足を上げたけど、実際は思うほど上がっていないなど)
この予想と現実の動きのギャップが転倒の原因になるのです。さらに筋力が弱っているため、バランスをとってふんばる力が足りずに転んでしまうんですね。
代謝が減り、太りやすくなる
代謝とは体内の脂肪などを消費して、脳や身体活動のエネルギーとして利用すること。よく代謝が良い悪いという言葉を耳にしますね。それは体内の脂肪などをエネルギーに変換する効率が高いか低いかという意味なのです。
↓は厚生労働省が発表している人体の部位別基礎代謝量です。
臓器・組織 | 代謝量(kcal/日) | 比率(%) |
---|---|---|
全身 | 1,700 | 100 |
筋肉 | 370 | 22 |
脂肪組織 | 70 | 4 |
肝臓 | 360 | 21 |
脳 | 340 | 20 |
心臓 | 145 | 9 |
腎臓 | 137 | 8 |
その他 | 277 | 16 |
この表を見ると筋肉の比率が22%。よく大量のエネルギーを消費すると言われる脳の20%をおさえて1位の代謝量です。
代謝には基礎代謝と活動代謝の2種類があります。(食事誘発性熱生産という代謝もありますが、筋肉と関係ないので割愛)
最も多くのエネルギーを消費する代謝。呼吸や臓器の活動など生命活動を維持するために自然と行われる
体を動かすためのエネルギーを消費する代謝。人体の組織ごとの代謝量は基礎代謝と同じくらいの比率になる
この基礎・活動代謝の両方で、最も体脂肪を燃やしてくれるのが筋肉なのです。
筋肉は何歳からでも増やせる
最後に今回の内容をまとめておきます。
- 加齢で最も速く減るのは足の筋肉。20歳時と比べ、80歳時点で足の筋肉は男性31%、女性29%減少する
- 筋肉は2週間使わないだけで50年分おとろえる
- 精神・肉体的に行動力が下がる
- 転倒・骨折可能性が上がり、介護リスクが高まる
- 基礎・活動代謝が落ちて太りやすくなる
ここまで筋肉の減少についてネガティブな話ばかりしてきました。でも良いニュースもあります。筋肉は何歳からでも増やせるのです。
オクラホマ大学による2009年の研究では、35〜50歳のアラフォーグループと18〜22才の若者グループに8週間にわたって同じ筋トレメニューを実施してもらいました。結果
- アラフォーグループは筋肉量が1,100g増加
- 若者グループは筋肉量が900g増加
というふうに、アラフォーグループの方がむしろ筋肉の増加量が大きかったのです。
他にも高齢者の筋トレを調査した研究はいくつもあり、年齢による筋肉の発達レベルに差はないという結論が出ています。
ぜひあなたも今日から簡単なものでいいので、筋トレを始めてみてください。特にスクワットなどは人体最大の筋肉である足を鍛えられ、健康効果が高いのでおすすめですよ(๑•̀ •́)و✧