- トランス脂肪酸はどんな食品に含まれる?
- トランス脂肪酸はどれくらい体に悪い?
- 世界と日本のトランス脂肪酸へのとり組みは?
トランス脂肪酸は健康に悪いとよく言われます。でも実は全てのトランス脂肪酸に害があるわけではなく、有害なのは工業的に作られたトランス脂肪酸だけです。
今回は6つの研究やWHO(世界保健機関)、厚生労働省などの情報をもとに、
- トランス脂肪酸とは何なのか
- 研究にもとづく体や脳機能への悪影響
- 世界各国と日本のとり組み
を解説します。
世界的に規制されているのに、日本では野放しなトランス脂肪酸の正しい知識は、健康長寿を目指すうえで欠かせません。
トランス脂肪酸には「工業もの」と「天然もの」の2種類がある
トランス脂肪酸には、
- 植物油への水素添加や加熱で発生する工業もの
- 肉や乳製品などの動物性食品が含む天然もの
の2種類があります。それぞれ具体的にどんな食品に含まれているのかを解説します。
工業トランス脂肪酸を含むのは加工食品や外食チェーンの油料理
植物油 + 水素で作る工業トランス脂肪酸には、
- 製造コストが安い
- 保存期間が長い
という特徴があります。そのためさまざまな加工食品や外食チェーンの油料理などで使われています。
- マーガリン、ショートニング、ファットスプレッドなどの植物油加工品
- 上記を使ったパン、お菓子、アイス
- マヨネーズ、カレールウ、ドレッシングなどの調味料
- 外食チェーンの油料理(揚げ物など)やスーパーの惣菜・冷凍食品
ショートニング、ファットスプレッドは聞き慣れない方もいるかもしれませんが、マーガリンと同じように植物油に水素を足して作ります。
食品ごとの具体的な工業トランス脂肪酸量が知りたい方は、農林水産省の調査結果(2022年時点で最新)↓が参考になります。
天然トランス脂肪酸を含むのは牛肉や乳製品などの動物性食品
天然トランス脂肪酸を含む主な食品は以下です。
- 牛肉
- バター
- チーズ
- 牛乳
- ヨーグルト
豚や鶏、魚なども天然トランス脂肪酸を含みますが、その量は牛の10分の1以下とごくわずかです。
動物性食品の具体的な天然トランス脂肪酸量が知りたい方は、FoodData Centralというサイトで検索してください。(日本にも食品成分データベースという類似サイトがありますが、トランス脂肪酸量はのっていません)
トランス脂肪酸は「工業もの」が有害、「天然もの」は無害
メタ分析では工業トランス脂肪酸は有害、天然ものには害がない可能性が高いという結果が出ています。
メタ分析:同じテーマの複数研究を統計的に分析する信頼性の高い研究方法
工業トランス脂肪酸を他の脂質で4g置き換えるごとに、心臓病リスク約20%低下
工業トランス脂肪酸に関する19件の研究を調べた2011年のメタ分析(※1)で、工業トランス脂肪酸を他の脂質で置き換えると、どのくらい心臓病リスクが変わるのかを調査しました。
研究結果をまとめたのが以下の表。エネルギー摂取の2%にあたる工業トランス脂肪酸を他の脂質で置き換えるたびに、心臓病リスクが低下する割合を書いています。
置き換え先の脂質 | 心臓病リスク低下率(%) |
---|---|
飽和脂肪酸 (バターなどの動物性脂肪) | 17* |
オメガ9脂肪酸 (オリーブオイルなど) | 21* |
オメガ3・6脂肪酸 (植物油など) | 24* |
有意:結果が偶然による誤差ではなく、統計的に意味があること
工業トランス脂肪酸はLDLを増やし、HDLを減らして心臓病を招く
工業トランス脂肪酸が心臓病の原因になるのは、LDLコレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らすためです。
LDLが増え、HDLが減ると心臓病の原因である動脈硬化になる
最初にコレステロール、LDL、HDLとは何なのかを説明します。
コレステロール:脂質の一種で細胞膜の原料。人体のコレステロールは全体の70〜80%が肝臓で作られ、残り20〜30%は食事でとる
LDLコレステロール:肝臓から全身の血管へコレステロールを送るタンパク質の一種
HDLコレステロール:全身の血管から余ったコレステロールを回収し、肝臓へ送るタンパク質の一種
コレステロール・LDL・HDLは体内で以下のようにはたらきます。
- 肝臓のコレステロールをLDLが全身へ運ぶ
- 全身に運ばれたコレステロールが細胞膜をつくる
- 余ったコレステロールをHDLが回収し、肝臓へ戻す
だからLDLが増えてHDLが減ると、血管でコレステロールがどんどん余り、やがて血管が狭く硬くなって動脈硬化を発症。この動脈硬化が心臓病を招きます。
工業トランス脂肪酸を他の脂質で2g置き換えるごとに、LDLが減ってHDLが増える
先ほど紹介した工業トランス脂肪酸に関する2009年のメタ分析(※1)では、LDLとHDLへの影響も調べています。
研究結果をまとめたのが以下の表。エネルギー摂取量の1%(約2g)の工業トランス脂肪酸を、他の脂質で置き換えた場合のLDL・HDL変化率を書いています。
置き換え先の脂質 | LDL 変化率(%) | HDL 変化率(%) |
---|---|---|
飽和脂肪酸 (バターなどの動物性脂肪) | -0.8 | +1.3* |
オメガ9脂肪酸 (オリーブオイルなど) | -3.8* | +1.0* |
オメガ3・6脂肪酸 (植物油など) | -5.1* | +1.3* |
工業トランス脂肪酸を他の脂質にすれば、LDLを減らし、HDLを増やして心臓病リスクを下げられることがわかります。
工業トランス脂肪酸で若者の記憶力が下がり、老人の認知症リスクが上がるかも
観察研究ではありますが、工業トランス脂肪酸は脳への悪影響も指摘されています。
観察研究:参加者に直接的な介入(食生活や運動量の指導など)をせず、今ある情報(質問票回答や身体測定データなど)をもとに行う研究方法。信頼性はそれほど高くない
45歳未満の人は工業トランス脂肪酸をとるほど記憶テストの成績が悪化
2015年の研究(※2)で、45歳未満の人は工業トランス脂肪をとるほど記憶力が悪化する可能性が示されました。研究内容は以下のとおり。
- 参加者は成人男女1,018人
- 質問表で参加者の食事内容を確認し、工業トランス脂肪酸摂取量を推定
- 英単語の記憶力テストを実施し、工業トランス脂肪酸との関係を分析
記憶力テストの手順は以下です。
- 英単語が1つ書かれた104枚のカードを1枚ずつ提示
- 1の後、再度104枚のカードを1枚ずつ提示(ただし82枚は新しい英単語が記載)
- 初めて見る英単語か、2回とも見た英単語かを答える
結果、
- 45歳未満の人は1日の工業トランス脂肪酸量が1g増えるごとに、単語テストの間違いが有意に0.76個多くなる
- 45歳以上には上記傾向がない
ということがわかりました。
これは記憶力に影響する年齢や運動、教育レベルなどの要因を調整したうえでの結果です。
研究者は工業トランス脂肪酸が血圧やウエスト、BMIなどの生理指標を悪化させ、間接的に記憶力を下げたと推測しています。
60歳以上の人は工業トランス脂肪酸をとるほど認知症リスクが上がる
2019年の研究(※3)で、60歳以上の人は工業トランス脂肪酸をとるほど認知症リスクが上がる可能性が示されています。
- 参加者は60歳以上の日本人1,628人
- 参加者の血中工業トランス脂肪酸濃度を測り、その後10年間の認知症発症との関係を調査
結果、血中工業トランス脂肪酸濃度が高い人は低い人に比べ、認知症リスクが有意に53%高かったのです。
研究者は「自己申告の菓子やマーガリン摂取量と、認知症の関連は弱かった」ともコメントしています。
3件の信頼性が高い研究で天然トランス脂肪酸は無害な可能性が指摘
肉や乳製品などの動物性食品が含む天然トランス脂肪酸には「現状それほど害がない」という結論になっています。
トランス脂肪酸が工業製か天然かの区別をせず、「マーガリンの方がバターよりトランス脂肪酸が少ないから安心!」なんて主張をする企業もいるので注意してください。
WHO(世界保健機関)は2023年までに工業トランス脂肪酸の根絶を目指す
WHO(世界保健機関)は工業トランス脂肪酸の危険性をいち早く認識し、2023年までの完全撤廃を目指しています。
たとえばWHOの2018年のレポートでは、
- 工業トランス脂肪酸の摂取で毎年推定50万人以上が心臓病で亡くなっている
- 工業トランス脂肪酸の規制を最初におこなったデンマークは、OECD加盟国の中で心臓病死亡率が最も早く減少した
と報告されています。
OECD(経済協力開発機構):ヨーロッパ諸国を中心に日本・米国を含めた38の先進国が加盟する国際機関
工業トランス脂肪酸を規制する世界と優遇する日本
WHOの2021年12月のレポートは、世界各国による工業トランス脂肪酸へのとり組みをまとめています。その中から主要国の工業トランス脂肪酸政策を抜粋したのが以下の表です。
国名 | 工業トランス脂肪酸政策 |
---|---|
アメリカ | 使用禁止 |
イギリス | 食品100gあたり2g未満に規制 |
インド | 食品油脂の5%未満に規制 |
中国 | 食品中の工業トランス脂肪酸の表示義務化 |
日本 | ー |
上記のWHOレポートには「世界57カ国37億人を対象に工業トランス脂肪酸政策が実施された」とも書いてあるのに、日本は「ー」。表示義務すらありません。
さらに2013年の消費者庁の方針(2022年時点でこれが最新)では、「食品100gあたりトランス脂肪酸が0.3mg未満の場合は0gと表示可能」などとメーカーに有利な表示だけが認められています。
厚生労働省は工業トランス脂肪酸を規制しない理由として、「日本人の工業トランス脂肪酸摂取は平均1日1.4g程度で健康への影響は小さい」と主張しています。
しかし、
- ↑の「平均」は赤ちゃんから老人まで全年齢を含む
- 質問表調査なので、先ほどの研究のように加工食品量を過小申告している可能性
- 世界は工業トランス脂肪酸ゼロを目指しているのだから、仮に1日1.4gでも多いのでは
と考えると、厚生労働省の「日本の工業トランス脂肪酸は問題ない」は根拠が弱すぎます。
日本の工業トランス脂肪酸も減ってきてはいる
日本の工業トランス脂肪酸へのとり組みをさんざん非難してきましたが、改善している点もあります。
食品名 | 工業トランス脂肪酸量 2006・2007年調査(g/100g) | 工業トランス脂肪酸量 2014・2015年調査(g/100g) |
---|---|---|
ショートニング | 12 | 1 |
マーガリン | 8.7 | 0.99 |
クロワッサン | 0.82 | 0.54 |
デニッシュ | 0.49 | 0.27 |
ショートケーキ | 0.44 | 0.42 |
食パン | 0.077 | 0.03 |
↑は農林水産省による、食品中のトランス脂肪酸に関する直近2回の調査結果をまとめた表です。
ショートニングやマーガリンの工業トランス脂肪酸量は劇的に減っていますね。企業も消費者の声や技術の進歩を受けて、工業トランス脂肪酸を減らしてはいるのです。
2022年現在の工業トランス脂肪酸量は、もっと減っているかもしれません。
国が工業トランス脂肪酸を規制しないなら、自分で健康を守るしかない
トランス脂肪酸についてまとめます。
- トランス脂肪酸には植物油への水素添加や加熱で発生する「工業もの」、動物性食品が含む「天然もの」の2種類がある
- 工業トランス脂肪酸は製造コストが安く、長持ちするためさまざまな加工食品や外食チェーンが活用
- 天然トランス脂肪酸は主に牛肉や乳製品などの動物性食品が含む
- 工業トランス脂肪酸はLDL(悪玉)コレステロールを増やし、HDL(善玉)コレステロールを減らして心臓病の原因になる
- 工業トランス脂肪酸は若者の記憶力を下げ、高齢者の認知症リスクを上げる可能性がある
- 天然トランス脂肪酸は複数研究で無害な可能性が示されている
- 世界は工業トランス脂肪酸の根絶を目指すのに対し、日本は何もしないどころか企業を優遇
- 日本の工業トランス脂肪酸も減ってきてはいる
世界が危険だと気づいている工業トランス脂肪酸を日本が規制しないなら、ぼくたちの健康は自分で守るしかありません。
食品の原材料に、
- マーガリン
- ショートニング
- ファットスプレッド
- 植物油脂
が含まれているもの、外食チェーンの油料理はできるだけ避けてください。(と言ってもほとんどの食品がこの条件に当てはまりますが…)。
もちろん多少工業トランス脂肪酸をとっても、すぐに悪影響が起こるわけではありません。神経質になりすぎて逆にストレスがたまっても健康に悪いので。
ふだんはなるべく自炊をして、たまに加工食品も楽しむくらいの距離感がいいと思います。
ちなみに、油は加熱するほど工業トランス脂肪酸以外の有害物質も増えます。詳しくは以下の記事を読んでください。
(後日公開予定)