現代病に共通する原因は狩猟採集・現代生活のギャップです。人類の長い歴史で農業革命や産業革命が起こったのはつい最近のこと。だからぼくたちの体は現代の環境にまだ適応できていません。
そこで今回は現代病の原因になっている狩猟採集社会と現代生活の違いを、
- 食事
- 運動
- 自然とのふれあい
という3つの観点から解説します。
現代病がなぜ起こるのかを理解すれば、薬などによるその場しのぎの対処ではなく、本当に有効なアプローチがわかるはず。健康リテラシーを上げ、正しい健康情報を判断する基準にもなりますよ。
人類史の99.9%は狩猟採集生活で、残り0.1%が現代生活
人類史の99.9%は狩猟採集生活です。
現人類と同じ種族のホモ・サピエンスが出現したのは今からおよそ200万年前。サピエンス誕生から199万7400年の狩猟採集生活が続き、今から2600年前にようやく日本で農業が始まりました。
そして日本で産業革命が起こり、現代の生活になったのは今から約100年前のことです。
人類が生まれてから今までの期間を仮に24時間とすると、
- 23時58分8秒に農耕生活が始まり
- 23時59分56秒から現代的な生活を開始
したわけです。
だからこそ現代病は、狩猟採集生活と現代生活のずれに人の体が適応できていないために起こります。
狩猟採集生活と現代生活の違い
では狩猟採集生活と現代生活にはどのような違いがあるのでしょうか。食事、運動量、自然との触れ合いの点から比べてみましょう。
過剰なカロリーと失われた食事の多様性
狩猟採集民と比べて現代人はカロリーを過剰にとり、脂肪・糖分・塩分にかたよった食事をしています。
人間は本能のせいで食べ過ぎる
人類の歴史について記したベストセラーのサピエンス全史
もし旧石器時代の女性が、たわわに実ったイチジクの木を見つけたら、あたりに住むヒヒの群れに食べ尽くされる前に、その場で食べられるだけ食べるのが最も理に適っていた。カロリーの高い食べ物を貪り食うという本能は、私たちの遺伝子に刻み込まれているのだ。
サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
現代人が太るとわかっているのに、つい食べすぎてしまう理由がわかりましたね。
人々の肥満の原因は、目の前の食事は全て食べ切るという遺伝子に刻み込まれた本能のせいなのです。
食べすぎを防ぐ科学的に有効な方法は以下の記事で解説しています。
(後日公開予定)
多様な狩猟採集食と脂肪・糖分・塩分にかたよった現代食
さらにサピエンス全史はこう続きます。
古代の狩猟採集民は、平素から何十種類もの食べ物を口にしていた。(中略)朝食にはさまざまなベリーやキノコを食べ、昼食には果物やカタツムリ、カメを食べ、夕食にはウサギのステーキに野生のタマネギを添えて食べたかもしれない
サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
いろんな食べ物から豊富な栄養をとっていた狩猟採集時代と違い、現代食は特に脂肪・糖分・塩分にかたよっています。
お菓子などの加工食品メーカーは、食べた人がもっとも快楽を感じて依存性が高まる脂肪・糖分・塩分の配合量を研究で見つけ出し、「至福ポイント」と名づけて活用しています。
特定の栄養にかたよってビタミンやミネラルが不足しがちな現代食に、人体は適応できていません。だから現代食で糖尿病や心疾患などの生活習慣病が起こるのです。
- 目の前の食事は全て食べ切るという遺伝子に刻まれた本能のせいで、つい食べ過ぎて肥満になる
- 狩猟採集民は多様な食べ物をとっていた。対して、特定の栄養にかたよった現代食は糖尿病や心疾患を起こす
健康的な食事をとるためのポイントは以下の記事で解説しています。
(後日公開予定)
劇的に減った運動量
次に狩猟採集・現代生活の運動量を比べてみます。
狩猟採集民は毎日75分の早歩き〜ランニング程度の運動をする
過去の人類の運動量を知るには、現代の狩猟採集部族を調べるのが手っ取り早いです。そこでタンザニアのハッツァ族の運動量を調査した研究(※1)を参考にしましょう。
ハッツァ族の特徴は、
- 狩った動物、採集したはちみつや木の実、芋などを主食とする
- 60歳超えの人も細身で引き締まった体を持ち、現役で狩りに参加
- 肥満、認知症、脳卒中、糖尿病の発症者はゼロ
というもの。まさに現存する狩猟採集民族です。
そんなハッツァ族は毎日75分の中高強度身体活動を行います。これは早歩き〜ランニングくらいの負荷の運動です。
現代人の半分は全く運動せず、週2以上30分を超える運動を1年継続している人は3割未満
厚生労働省の統計によると日本人は、
- 健康のために運動をしている人は約50%
- 週2回以上30分を超える運動を1年継続している人は30%未満
というのが現状。狩猟採集民と比べて運動量は圧倒的に少ないです。
この運動不足の現状では体力が落ちて疲れやすくなったり、筋肉がおとろえて寝たきりになったりしても仕方ありません。
- 狩猟採集民は、毎日75分の早歩き〜ランニングくらいの負荷の運動をする
- 日本人は運動をしている人が約50%、週2回以上30分を超える運動を1年継続している人は30%未満
短時間でできて、科学的に最も健康効果が高いとされている運動は以下の記事で解説しています。
(後日公開予定)
自然との触れ合いの減少
狩猟採集民の日常は自然と共にありました。日々大地をかけ回り、川や海に潜り、森の中で過ごすのです。
人類はその長い歴史で、ずっと自然にふれあいながら生活してきました。だから人の体は自然の中で最もリラックスするようできています。
自然の健康効果を検証した研究は数多くあり、ここでは2013年の研究(※2)を紹介します。研究内容は以下のとおり。
- 参加者は男子大学生420人
- 参加者の半分は日本全国35ヶ所の森林へ、もう半分は市街地へ行った
- 参加者は各場所で20分ほど過ごし、さまざまな生理指標を計測
結果、都市部のグループと比べて森林で過ごしたグループは、
- コルチゾール(ストレスホルモン)が12.4%減少
- (興奮で高まる)交感神経活動が7%低下
- (リラックスで高まる)副交感神経活動が55%上昇
- 血圧が1.4%低下
- 心拍数が5.8%低下
- 免疫力を高めるナチュラルキラー細胞活性が56%向上。都会に戻っても23%の向上を1ヶ月間維持
という生理的なリラックス効果が得られました。
大気は汚染され、過度な音と光に満たされて緑がほぼない都会ではストレスが増え、うつ病になったりするのも当然と言えるでしょう。
自然をうまく日常生活にとり入れて健康になる方法は、以下の記事で解説しています。
» 日常生活に自然を効率的に取り入れて健康・幸福度を上げる完全ガイド
狩猟採集生活を見習うのがシンプルで効果的な健康法
今回の内容をまとめます。
- 人類史の99.9%は狩猟採集生活。だから現代生活に人の体が適応できずに現代病になる
- 狩猟採集生活の「目の前の食事は全て食べ切る」という本能が現代人を肥満にさせる
- 多様な食べ物から豊富な栄養をとっていた狩猟採集食と比べ、脂肪・糖分・塩分にかたよった現代食が糖尿病や心疾患などを引き起こす
- 狩猟採集民は毎日75分の中高強度身体活動をする。対して現代人は運動をしている人が約50%、週2回以上30分を超える運動を1年継続している人は30%未満
- リラックス効果がある自然との触れ合い不足でストレスが増え、うつ病が増加している
毎日をより健康的に過ごすには、生活を狩猟採集時代に寄せていくのが最もシンプルで効果的な方法です。なぜならぼくたちの体は狩猟採集生活に適応しているから。
もちろん「文明を捨てて森で自給自足生活!」なんてことを実践する必要はありません。乳幼児死亡率の改善など、現代生活がぼくたちを豊かにしている面もあります。
まずは、
- 外食や加工食品のかわりに、いろんな新鮮食材で自炊
- 通勤や私生活で1分でも多く体を動かす
- スマホやテレビ時間の一部を、緑がある場所での散歩に使う
みたいな感じで、できるところから人の体に適した生活習慣をとり入れてみましょう。
ほんのささいな行動の変化でも、積み重ねていけば仕事の生産性や体調、幸福度を大きく上げてくれますよ。